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令和3年度卒業式式辞(2022年3月13日)

 本日、石川県立看護大学を卒業される80名の学部生の皆さん、7名の大学院博士前期課程の皆さん、2名の博士後期課程の皆さん、誠におめでとうございます。本学の教職員一同とともに、心からお祝い申し上げます。また、本日はコロナ禍などでご多忙のところ、石川県知事谷本正憲さま、石川県議会議長稲村建男さま、かほく市長油野和一郎さま、後援会長の尾角由紀子さま、そして石川県公立大学法人理事長の宮本外紀さまにご臨席を賜り、誠にありがとうございます。あわせてご父兄・ご家族・関係者の皆様から今日までいただいたご厚情に心より御礼申し上げます。

 暖かい日差しも増え、やっと春の気配が濃くなってきました。石川県立看護大学を卒業される83名の学部生の皆さん、大学院博士前期課程・後期課程を修了される10名の皆さん、ご卒業、ご修了、誠におめでとうございます。また、谷本知事をはじめご来賓の皆さま、本日はご列席を賜り誠にありがとうございます。そしてネットを通じてご参加下さっているご父兄、ご家族、関係者の皆さま、今日まで皆様からいただいたご厚情に感謝するとともに心よりお祝い申し上げます。教職員一同、久しぶりに、皆さんと一堂に会し、また緊張気味のお顔を拝見し、皆さんとのたくさんの思い出が走馬灯のようによみがえっています。

 さて、この2年余り、新型コロナウィルス感染症の感染爆発のため、誰もが不自由な生活を余儀なくされてきました。そのような環境の下でも、皆さんはたくましく学習し今日の日を迎えています。心配していた教職員たちも、大変喜ばしい気持ちです。
 しかしここまでくる道のりは大変でしたね。看護学部卒業の皆さんは、3年次になって看護に関する勉強が佳境に入る時期とコロナの来襲がぶつかりました。看護学教育の花形であり、最も学びを実感できる臨地実習が大きな打撃を受け、臨地に行く時間数の大幅な減少と補習や演習の強化という想定外の状況で勉強しました。
 大学院を修了の皆さんは、入学したての頃、またはちょうど学位論文の研究が佳境に入った頃からコロナに影響され、研究計画やデータ収集に困難が生じた方もあったことと思います。
 しかし皆さんは、このような逆境で学ぶことによって別の意味での勉強ができたとも考えられます。学部生の皆さんは短時間の臨床現場での観察・情報から「考え推論する力」を、大学院生の皆さんは研究計画や方法の「吟味・修正の力」を高めた可能性があります。
さらに、Zoom画面での発言においては、最後まで自分の考えを述べ切ることが求められたと感じませんでしたか? 対面の時のように言葉を濁したり、顔を見合わせて途中で止めたりできず、「自分の考えをまとめる力」も高めたのではないでしょうか。事実、皆さんの卒業研究や学位論文の発表会、そして国試に向けた頑張りに、学びというものは、少々の妨げがあっても乗り越えられるものだと教えられた気がいたします。教員も皆さんと同様に、コロナに負けてばかりではなく、IT機器を用いた教育に強くなり、動画作成にも習熟しました。これらの技術はコロナの脅威が去ったとしてもあとに残り、活用されます。

 コロナは皆さんの学習に大変大きな影響を与えましたが、このように、逆境でも得るものがある、逆境だからこそ学べるものがあるということを経験させてくれたように思います。また、大学生活や大学院生活では、人との出会いがもたらす自己の形成も大切です。
特に学生時代に他者と交わることは、まだ頭の柔らかい時期であることや、余計な構えのない学生という身分から来る謙虚さなどによって、何物にも代えがたい刺激になります。他者と交わる経験は、有形無形に一人一人の考え方に柔軟性や幅をもたらす宝となります。石川県のおかげで本学のキャンパスは、広くゆったりと作られており、教室とは違う空間がたくさんあり、出会いには絶好のキャンパスです。しかし、コロナ禍においては皆さんに登校制限や座席の制限、マスクの着用をお願いしなければなりませんでした。教職員にとって大変つらい決定でした。それは今述べたような、他者と交わることがいかに大切であるかをよく知っているからです。
しかし、機会が減少しても、他者との交わりがなかった人はいないでしょう。少ない交わりであったとしても、量より質で、経験したことが皆さんのしっかりとした財産になっていることを願ってやみません。

 さて、皆さんはこれから希望に胸を膨らませ、それぞれの道に進むことと思います。皆さんにとっては、3月を境に、実習では立ち入ることを制限された臨床現場から、今は手招きされている状況であるという180度の転換となります。それだけ皆さんの学びが信用されているということです。長いコロナ禍で疲弊した医療現場からの皆さんへの期待は、通常の年をはるかに凌ぐ勢いではないかと考えられます。そのような環境に放り出される皆さんは、想像以上の大波に揉まれる感じを抱くかもしれません。
 そこで、波に呑まれないように、サーフィンを思い出してみましょう。サーファーは、腹ばいになって波と同じ向き・同じ速度で波を捉え、捉えると同時にすっくと立ち上がり、両足でボードを踏みつけ波を押しながらバランスをとって波と平行に、なるべく長く波の上にいます。波にもて遊ばれることなく、波とのやり取りを上手にしています。
 皆さんは国家試験合格を乗り越え、サーファーに例えれば基本的な泳ぎは十分できます。しかし、波に乗るには、押し寄せる波の向きとスピードに自分を合わせることができなくてはなりません。自分の好む向きとスピードではありません。来る波の向きとスピードに合わせるのです。次にしっかりと立つには、波からの反発に耐えるだけの重しをかけること。新人では重しが足りないかもしれません。その場合は先輩から力を借りましょう。まっすぐ立てたらバランスを取って倒れないようにすること。それには全方位に必要な力を備えていなくてはなりません。新人では知識・技術に偏りや抜けがあるかもしれません。それに対しては、急ぎ勉強すること、または教えてもらうことで全方位に必要な力を整えます。次にひたすら前に進むこと、決して波の真っただ中で振り向かないことが大事です。過ぎてしまったことは悔やまず、皆と一緒に先に進まないと、迷ったり、自信を失ったりして、追ってきた崩れる波に飲み込まれます。皆さん、波に乗るイメージができたでしょうか?
 一方で、新人にとって他から力を借りること、教えてもらうことは難しいものです。他から力を借りるには、自分を過信せずに正直になることが大事です。知識不足、技術不足を正直に表明し、教えを乞う態度や気持ちを示すことが重要です。一人で困っていても通じません。正直に力量の不足を打ち明けて先輩や同僚に揉まれることです。力を借りたお礼は「成長」や「次の機会には助ける側にまわる」ことでお返しすれば喜ばれます。これが新しい環境でのコミュニケーションの始まりと言えます。
 素人は、サーフィンは夏に海水浴場でやるものと思っていますが、プロフェッショナルは季節や場所、波の種類に関係なく挑戦します。大学院を修了の皆さんには、研究というスキルや高い実践力を備えた高度なプロフェッショナルとして、波に乗る技術を研究開発し、防波堤を工夫・創出すること、波の被害を最小限にする工夫など、期待されている役割が沢山あります。
ここ2年間はコロナという大波がきています。自然災害も多発してきています。少子高齢化がさらに進めば、社会経済という大きな根っこを持った波も目立ってきます。大学院で学んだ自己を信頼して、各自の道で、身につけた力を基に力強く、そしてサーファーのように華麗に活躍して下さることを願っています。

 さて、この1年は、スケートボードなどの新しいスポーツで10代の若者が台頭し、これまであまり目にしなかった光景を目の当たりにしました。競技に参加していた選手たちが国籍に関係なく勝者に駆け寄って祝福するという光景です。勝者の言葉も、国のために戦うというより、国の違いに関係なく競技仲間とリスペクトしあっていると感じさせられました。
 翻って思い返すと、メダル数ばかりで測る報道を近年うるさく感じる原因はここにある、競技者の根底の気持ちが変化しているのに、昔ながらの「国のために頑張る」という姿を求めるところにある、と思わされます。大事なことは高め合うこと、その点において、国境はないのです。そのことに新しいスポーツ競技、それを追いかけるまだ10代の若者から、ストレートな言葉で気づかされたということだと思います。若者の言葉は、堂々とはっきりしていて、自分を語ることを恥じらう従来の日本人としては嬉しくもあり、驚きでもありました。また、決して彼らが大変若いからだというわけでなく、時代はずいぶん変わり、上の世代にも新しい価値観が芽生え、広がっているという感じを受けました。
 このようにスポーツ競技で生じている国境を越えた仲間の形成は、おそらくスポーツに限らず、すべてのジャンルの草の根レベルでのつながりに生じているのではないかと思われます。看護のジャンルも同様です。コロナに影響されて見えにくくなっていますが、本学が早くから掲げてきたグローカル人材育成に対しては、社会人になっても関心を持ち続けていただきたいと思います。
 海外の看護を経験することや友人を作ることは、目の前が広がり、発想を豊かにし、皆さんのよって立つ看護のイノベーションにつながります。オリンピックより地味ではありますが、皆さんには医療の世界で国境を越えて仲間を作り、広い視野で考える頭を持つ医療人になり、互いのリスペクトの下で大いに切磋琢磨していただきたいと思います。またそのプロセスでは、その背景となる国やその文化への理解も深まることと思います。

 ここのところ、ウクライナで起きている危機が頭を離れません。アメリカのジョセフ・ナイ元国防次官補は、平和を作り出す知恵として、ハードパワーとソフトパワーの概念を提唱しました。ハードパワーは武力行使や経済制裁、ソフトパワーはさまざまな課題で交流し、国の魅力を感じさせて引き寄せる力と定義し、ソフトパワーの平和への意義を取り上げました。解決の難しい争いの火種は、世界のあちこちにあると聞きます。今、皆さんの身の回りに生じている新しい価値観の芽生えや、それに伴う国を超えた交わりが、戦争の抑止に役立つ日を期待し、皆さんにはそのような世界を創出して下さることをお願いしたいと思います。これからは皆さんの時代になります。大いに活躍してください。

 今年は雪が多く、寒い冬でしたが、本日を目指して春が急接近してきました。呼応して植物も動物も、そして我々も春色に染まり、巡る自然のありがたさを感じます。石川県立看護大学の校舎とキャンパスはどんな季節にも自然と調和し、凛としたたたずまいを見せてくれます。そして皆さんが、卒業、修了後も、訪ねてくれることを期待しています。
 最後にここに集う一同が、皆さまの未来を楽しみに見守り、応援していることをお伝えし、この式辞を終わりたいと思います。本日は誠におめでとうございます。

令和4年3月19日
石川県立看護大学 学長 石垣和子

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