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平成31年度入学式式辞(2019年4月3日)

 本日石川県立看護大学に入学された82名の皆さん、石川県立看護大学看護学研究科博士前期課程・後期課程に入学された16名の皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。あわせて、入学の皆さんを今日まで支えてこられたご家族や関係者の皆さまにもお祝い申し上げます。また、お忙しいところ駆けつけてくださいました谷本石川県知事をはじめ、ご来賓の皆様、そして石川県公立大学法人の皆様、ご臨席を賜り厚く御礼申し上げます。今日、ここには、希望を胸に看護学部で看護師・保健師を、看護学研究科で助産師を、同じく看護学研究科で教育研究者を、そして高度な専門性を持つ専門看護師を学ぼうと志す方々がおられます。皆さんから発せられる輝くような熱気を感じ、私たちも大変嬉しく、期待が高まると同時に、身の引き締まる思いを強くしております。
 さて、人々の身近に昔から存在する看護は、そのための教育を受けたものが行う専門職の仕事となり、社会の状況に応じて折々に教育の内容が追加され変化してまいりました。知識や技術ばかりでなく、人間性の涵養が求められ、そして今や、ますます看護職の資質やそれを保証する教育環境の整備に注目が集まり、看護系大学・看護系大学院が必要とされ、本学の近隣にもその波が押し寄せております。病む人にとって、そして良き医療の提供を目指す医療人にとって、この流れは当然のことであり、大変喜ばしいことでもあると思います。このような時代の中で、本学も大いに刺激を受け、怠らずに改革を進めねばならないと考えているところです。
 本学はすでに20年の歴史を刻み、1400名以上が石川県をはじめ全国あちこちで働いています。看護学部入学の皆さんはこの大学の記念すべき20期目の入学生です。長い看護の歴史からすればほんの一歩ではありますが、他に先んじてできた大学として、石川県に長く支援していただいている大学として、これまでの経験を生かしながら他の大学に劣らぬ、いえ、他の大学に勝る教育を提供しようと皆さんの入学に合わせてカリキュラムを改革し、本日お迎えいたします。
 看護学研究科に入学の皆さんもすでに130名以上の先輩が、実践現場や教育機関で活躍しています。先輩たちは皆さんが続いてくれることを心待ちにしています。一方で、看護学研究科で助産師を目指す皆さんにおいては、まだ発足して2年目です。しかし、新しい分、現代に適した助産師となれるよう他にない最新のカリキュラムを用意しております。これからも看護系大学新設のうねりは続くことが予想されます。本学は、入学された皆さんが誇れる母校であり続けられるよう、皆さんとともに教育改革を続けてまいります。
 さて、皆さんは合格発表のあと、この入学式までの間をどのように過ごして来られましたか? たっぷりと気分転換はできたでしょうか? そして大学で学ぶ心構えは整っていますか?皆さんはこれから山登りをしなくてはなりません。看護職や高度実践看護師になるという山、教育研究者になるという山です。一人一人、現在地からすれば見上げるような高さの山です。登りきった暁には見違えるような展望が待っています。山と言えば、このキャンパスからは宝達山がとてもよく見えます。また、少し行けば白山がそびえ、左を見れば立山連峰が屏風上に壁を作っているのにも驚かされます。石川県内のあちこちで山が目に飛び込み、今の時期、雪化粧が美しく、飽きずにいつまでも眺めてしまい、心も安らぎます。ですが、勉強の山は眺めているだけではすみません。明日から登らなくてはならないのです。ではどのように登りましょうか?
 ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェは言っています。「高く登ろうと思うなら、自分の足を使うことだ。高いところへは、他人によって運ばれてはならない。人の背中や頭に乗ってはならない」と。実際の山に登るとき、最近は道路が発達してかなりの高さまでクルマで行ける山もあるようです。しかし、それは子供連れの、もしくは私のような年寄りの場合です。足で歩くことのできる若者がそれをやってはもったいないのです。なぜならば、自分の足で歩くとゆっくりと進むことになり、ゆっくり進めば時間を費やした分、何かを得ているからです。水の流れあり、日陰にひっそりと咲く花あり、道が何度もくねり、急に開けた場所があり、と様々な光景に目を向け、いつの間にか何か考え、小さな発見の経験がその人に残ります。車で通ってしまっては全部がすっ飛びます。
 皆さんの勉強の山も一歩一歩自分で登らなくてはなりません。早く登ろうと人の手を借りてはいけないのです。勉強の道すがら自ら選んで開ける本、閉じる本、考えてまた開ける本、あれこれ考え調べる経験、小さな驚き、人の手を借りることによってこれらが抜けてしまうのです。なぜこれが抜けてはいけないかというと、目的のためには「無駄だ」、「無用だ」と思えることにも大いに価値があるからなのです。「無駄こそ大切」は、無駄学を研究している東京大学の西成先生の考えです。「効率化一辺倒では無駄を省いてしまい、試行錯誤ができなくなる。適度なゆとりは無駄に見えて無駄ではない。リラックスした状態で自由に連想するとき新しいアイディアが飛び出す。無駄には効用がある」と書いています。「無用」ということについては、「無用の用」ということわざがあります。これは中国の老子の思想に基づくもので、役に立たなそうなものが実は大事ということを言っています。
 人は本当に不思議なものです。早く到着すればいいという単純なものではなく、ゆっくり進むことにも意味があり、余禄がたくさん付いてくるのです。山に囲まれた国モンゴルにはこんなことわざがあるそうです。「山が高いからといって戻ってはならない。行けば越えられる。仕事が多いからといってひるんではいけない。行えば必ず終わるのだ。」私は昔、登山は苦手でした。仲間から遅れ、途中からもう駄目だと思いながら歩いたものです。しかし、頂上についた時、先に着いた仲間は私を取り囲んで喜んでくれました。もちろん自分も嬉しく、遅れてしまったことは少しも悔しくありませんでした。これから皆さんが取り組む勉強の山も同じです。まず自分で進む、遅れてしまっても進めば越えられる、そして遅い早いではなく、頂上まで登れたことを友と喜びあう、本日入学した皆さんは同じ学年の仲間とこのような関係を作っていただきたいと思います。自分の足を使う大切さを分かる仲間となら分かち合えるはずです。さらに、近代看護教育の母といわれるフローレンス・ナイチンゲールの厳しい言葉を紹介します。「あなた方は進歩し続けない限りは退歩していることになるのです。目的を高く掲げなさい」 この言葉には私も身が引き締まります。皆さん、この大学に入ったからには足踏みせずに進んでください。少しずつでも高度を上げてください。そして皆さんには背伸びをして高めの山をお勧めしたいと思います。十分その力があることは先輩たちが証明してくれています。
 皆さん、ここまで聞いて、これから勉強攻めにあいそうで大変なことになると思っておられますか? そのくらいの気持ちでいてほしい思いはありますが、本学での学び方は皆さんが想像するのとはひと味違っているかもしれません。本学では楽しい学び方も待っています。海外との交流が多く、いろいろな国の人に出会う機会があります。講義室からキャンパスの外に飛び出す活動はとても盛んです。地域の住民に求められ、喜ばれる活動に参加すると、自分たちもいつの間にか学んでいる経験もします。大学から指定された学業以外に、友人、先輩、教員等と交わることも大事です。楽しいことでアクセントをつけながら元気に進んでください。
 全国から桜の便りが聞こえてきています。地球の温暖化の話を聞かされ、実際に桜の開花が早まると、季節にも「温室効果ガスの手を借りずにゆっくり自分の足で進みなさい」と呼びかけたくなります。幸い、今年はこのキャンパスの桜の開花・満開を皆さんとともに迎えられそうです。最後に、教職員一同、本日から何事も皆様と共に歩むことを誓って式辞といたします。本日は誠におめでとうございます。

石川県立看護大学

学長 石垣 和子

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