タイ国立チェンマイ大学看護学部
平成30年度タイ国立チェンマイ大学看護研修
平成30年度タイ国立チェンマイ大学看護研修
政治や文化、社会経済の異なる国での保健医療システムを知り、地域における住民の暮らしや健康課題への対処方法について学ぶことにより視野を広げ、学生の将来の活動において様々な地域住民への健康づくりにアプローチできる、グローカルな人材を育成することを目的に2018年8月26日(日)~ 9月8日(土)の14日間、タイ国立チェンマイ大学看護学部で看護研修を実施しました。
【参加者】
2年生6名、3年生4名、4年生1名、引率教員2名 (合計13名)
【主な研修内容】
1. 講義
- タイの看護教育
- タイのヘルスケアシステムと保健師の役割
- 外傷ケア
- 新生児への疼痛ケア
- チェンマイ地域の訪問看護
- タイの高齢者看護
- 小児期、青年期におけるHIV(エイズ)予防
- タイの伝統的補完代替医療とその知恵
- タイの感染症予防
2. 訪問見学と実習
- チェンマイ大学病院と地域の病院を訪問見学
(救急外来・外科病棟) - 地域での訪問看護システムの紹介と実際の見学
(在宅での訪問看護の実際) - 保健センター、コミュニティーケアユニットの訪問見学
- チェンマイ大学看護学部内での高齢者サロンの見学
- タイマッサージスクールの見学と体験
- チェンマイ大学附属伝統的補完代替医療センター見学
- チェンマイ大学附属看護歴史博物館と看護学部実習室
- 研修のまとめ発表(英語でのプレゼンテーション、質疑応答)
3. 文化交流
- チェンマイの町と周辺の視察(チェンマイ大国際看護学部学生案内による)
- チェンマイ大学新入生歓迎登山の参加見学
【研修での学び】(一部抜粋)
(棚橋 楓 2年生)
タイにおける看護教育についての講義では、チェンマイ大学の歴史や看護学部の方針、行事など多くのことを学んだ。私はチェンマイ大学の看護学部のモットーである”a wise person develops him/herself”という言葉が印象に残り、大学側は聡明な学生であることに重きを置いていることが分かった。また、看護師という専門職は、豊富な知識、批判的思考、リーダーシップやコミュニケーション能力、周囲への良い態度、変化などが求められると聞いた。どこの国であってもナイチンゲール精神は変わらず、タイでも看護師は人間性や知性、チームワークを求められること等は、日本と同じだと思った。
研修全体を通して、日本とは異なる政治や文化、社会経済をもつタイの医療や保健、看護や福祉について学ぶことができた。英語での講義や自分が話したいことを英語で話すのは想像以上に難しく、自分の英語力の弱さを痛感させられ、英語力の向上は私自身の今後の課題となった。
(橋爪 更紗 2年生)
見学を通して特に印象に残った施設は、おもにタイや中国の伝統医療を行っているTTCM(Thai Traditional and Complementary Medicine Center)という施設だった。この施設では、伝統医療はもちろん、伝統医療を広めるための活動も行っていた。タイは中国やインドなど他の国と大陸でつながっており、昔から貿易を通して様々な種類の医療が集まる場所であった。この施設では、患者は診察を受けた後、西洋医療、タイと中国の伝統医療の3つから効果的だと予想される治療を選択することができる。伝統医療は、世界中には広まっていないが、大きな効果がある。西洋医療では症状が治らずに悩んでいる人にも効果があると聞き、多くの人に伝統医療の存在を知って欲しいと感じた。また、伝統医療では一人一人の患者さんと長く向き合うことで、その人にぴったりの薬やケアの組み合わせを考えるため、慢性疾患や原因不明の症状がある患者にとって効果的で重要なものであることがわかった。
(河端 優佳 3年生)
MPLUS FOUNDATION この施設では男性の同性愛者を対象とした健康問題や性感染症防止を目的とした施設で、カウンセリングや血液検査、PEP(暴露後予防薬/PrEP(暴露前予防薬)の配布などを行っていると学ぶことができた。日本では、HIV検査などが無料で受けられる。検査を受ける人が増えて統計にも反映され、新たな感染者が増えないようにするためにも自分の身体について知っておくことは必要だと思った。
日本ではドラマやメディアなどを通して同性愛者に対するスティグマが弱くなってきてはいるものの、タイやアメリカなど他国と比較するとまだまだ強く、告白することや検査を受けることは難しいと感じた。同性愛者であることを告白するかどうかは本人に任せるとしても、検査を受けて自分のエイズの感染の有無については知っている人が増えるように性感染症について友だち同士などで情報を共有しようと思った。
(中村 乃々佳 3年生)
研修に参加したことでタイの医療の現状だけでなく、日本の医療制度や現状も改めて学ぶことができた。英語での講義であるため、自分の力不足、知識不足を感じながらも英語を存分に使う機会が多くあったためアウトプットの良い練習にもなった。また他の国の医療について知ることで興味・関心が出てきて学ぶことへの意欲が高まった。異なる国の文化や国民性を背景として、その国にあった方法で医療が発展したことを知り非常に興味深かった。反省点は、あらかじめ英語の名称も一緒に学べばもっと現地での講義内容がしっかり理解できたという点と、タイ、チェンマイについての情報をもっと調べておけばよかったという点である。言語についても英語だけではなくタイ語も少し単語を知っておくだけで役に立つと思った。さらに日本の医療や現状について英語で上手く説明できるようになることが必要だと強く感じた。相手の国について知るだけで終わるのではなく自分の国についての情報を伝え、話し合いまでできるととても充実した時間になると思った。海外で異文化に触れることで視野が広がり、今後の学習意欲の高まりに繋がったとてもよい経験となった。
研修報告 (引率教員:北山准教授、清水講師)
本学の学生向け海外研修には、アメリカ、韓国、そして本報告となるタイも含め3か国のプログラムがある。その中で日程が最も長期にわたる研修がタイ国立チェンマイ大学のプログラムで、平日の午前は毎日講義 → 午後からは午前の講義内容を踏まえた見学演習や視察訪問という形式で、国際交流に重きをおいて参加する学生には負担を感じることも懸念された。しかし、蓋を開けるとそのような心配は無用で、学習者にとっては学んだ記憶が新鮮なうちに実践されている場面に触れられるという優れた構成で、まさにチェンマイ大学看護学部オリジナルの研修プログラムであった。プログラムでは、タイ看護教育の歴史、伝統的補完代替医療、タイの地域包括ケアシステムやヘルスボランティアの育成、性教育プログラムの作成と親への介入研究の報告、同性愛者へのHIV予防啓発、健康教育機関の視察など、日本の看護教育現場では得ることのできない講義や訪問視察を豊富に盛り込んでおり、基礎看護学実習レベルの2年生、領域別実習前の3年生にとっても、興味深く能動的に学ぶ姿勢が多くみられた。今後学生は日本の看護実践の現場へと向かっていく中で、この経験を生かしてグローカルな視点で日本の看護についても学びを深めていくと思う。ご協力いただいたWipada 看護学部長をはじめ、Jutarat 副学部長、看護学部教員の皆さま、事務局のMs. Chonthichaに大変感謝申し上げる。